あすか伝

三輪様に初めてお会いしたのは去年の夏のことでした。あたしは祭りの準備に追われたため、普段は通らない山道を通って帰ることにしました。
それが間違いの元でした。
暗い夜道で野犬に囲まれてしまったのです。
その時助けてくださったのが三輪様でした。
三輪様のお顔を拝見したときあたしは本当に驚きました。
その姿が昔から繰り返してみる夢の中の英雄様に瓜二つだったのです。
もっとも夢の中の英雄様は刀を振るい化物を退治していましたが。

あたしは三輪様を村に招待し、祭りを楽しんでいただきました。そのあとも残っていただきたかったのですが、御用があるということでお別れすることになりました。ただし次の年のお祭りには必ず来てくださると約束をして・・・。もっともその約束はけして果たされることはなくなってしまったのですが・・・。

野盗でした。
稲の収穫が終わったのに気がつき奪いに来たのです。
あたしは逃げました。村の人たちを置いて。
こんな時に三輪様が居てくださったら・・・。
あたしは祠の裏へ隠れました。
だがそこにはいつもの扉はなくあたしは闇の中を滑り落ちました。

ここから先はあまりよく覚えていません。不明瞭な夢の中のような出来事。まるで英雄様が出てくるあの夢のような・・・。

封印されていた魔物。どうやらあたしの祖先が関係してらしく、子孫であるあたしの血によって復活を果たしたようでした。ただし、かわりにあたしを殺すことはできず、操り人形としていたみたいです。

魔物は体を欲しがりました。本当の体は江戸にありそれを取り戻すための強い体を。
その体はすぐに見つかりました。
強い人でした。10人を超える相手を素手で倒していたのです。戦い終わったその人の気を引き、魔物がその首を落としました。その死に際の瞳はとても優しげだったのを覚えています。
魔物はその体を乗っ取り、盗賊のアジトへ向かいました。
新しい体に慣れるために獲物が必要だということでした。大量の血と魂が。

それからは皆様のご存知のとおりです。
おかげさまでなんとか無事生き延びることができました。お和香さまのおかげでこのような仕事を世話していただき、本当に感謝の言葉もございません。
本当にありがとうございました。